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AI海戦

人工知能は海戦の意思決定をどう変えるのか?

紹介

人工知能は海戦の意思決定をどう変えるのか?監訳 五味睦佳(元海上自衛隊 自衛艦隊司令官)アメリカ海軍大学教授、退役提督、元国防副長官らによる海上戦場の変革シミュレーション。

AIは戦場でどう役に立つのか。本書は、この疑問に対する米国海軍の最新の叡智を集めた宝石箱と言える。中国に先行されがちな大量のデータ収集と学習によるAIの強化。対抗するにはどうすべきかに関するヒントが見えてくる。

前書きなど

「敵艦に突撃せよ」。これは、歴史上最も偉大な提督であるロード・ネルソン(Lord Nelson)中将がトラファルガー海戦において言った言葉である。わたしは、その後数年に及ぶ彼の戦術的アプローチについて真摯な研究を始めた、海上で軍艦を指揮する日を楽しみにしていた一少佐に過ぎなかった。わたしが彼の訓戒に潜心したとき、個艦と艦隊がその行動原則を達成するためにはどのように自艦を配置すべきか知りたいと思った。
わたし自身の研究から、情報が重要な要素であることを把握しており、少なくともそう確信していた。しかし、危機や戦いの最中に、正確な情報を入手することは常に困難である。よく言われることは、「第一報は常に間違いである」ということである。海軍の歴史を通じて指揮官として成功するためのカギは、不完全な情報を整理し、可能性のあるものと低いものを見極め、経験によって磨かれた専門家としての判断に基づいて意思決定を下す能力であった。ネルソンはそのことを知っていた。そして自分は長年の海上勤務からそのことを徐々に学んだ。
当時、つまり1980 年代後半、米国海軍はすでにアナログからデジタルへの移行を実施し始めていた。多くの兵器とセンサーそれ自体はすでにデジタル化されていたが、複数の情報源とセンサーから得られるデジタル情報が、作戦上の(「人間」の心を読む)意思決定において、決して無むびゅう謬ではないにもかかわらず、真に信頼できるアセットとなったのは、旧来のパラダイムを打ち破るイージス戦闘システムが水上艦隊に普及してからであった。わたしは幸運にも、本当に最初のイージス艦の一つである米国艦艇「バレーフォージ」(Valley Forge)(CG 50)の初代船務長(作戦指揮官)になり、この艦艇で「イージスの父」、ウェイン・マイヤー(Wayne Meyer)海軍少将の技術的な洞察力、およびウェイン・ヒューズ(Wayne Hughes)海軍大佐の戦術的な洞察力の恩恵を受けた。
同時に、パーソナルコンピューターの一般の普及、インターネットの普及と商用化、サイバー空間の驚異的な進歩(および紛争の可能性)が起こった。それらによりこれまで取得して分類するのに多くの時間と人的労力を必要としていた情報が、世界中で溢れかえっていた。文民と軍事の両方の分野で利用可能な膨大な量の情報がこれほど急速に増加したため、人間の頭脳では追いつけないかに見えた。そして意思決定者たち、特に戦闘に直面する可能性のある人々は、絶え間なく流入するすべての情報を分類するための新しい方法を必要としていることが顕あらわになり始めた。

海軍の行う作戦では、情報はすでに個々の艦艇に搭載されたセンサー、いわゆる有機的センサーが主役ではなくなり、正確な情報は、衛星、陸上局、他軍種の統合アセット、およびオープンソースから提供されていた。敵をターゲティングするのに適した情報の欠如は依然として問題になることがよくあるが、その時点で情報が多すぎ分類できない状況がしばしば起こった。敵にも同様に利用できる多くの情報があった。
それでは、どうすれば「敵艦に突撃する」ポジションをとり続けることができるのか。そこで気付いたのは、この答えのポイントが情報の可用性から意思決定の速度に変わったことであった。このことはいくつかの点で、米国空軍のジョン・ボイド(John Boyd)大佐の観察-状況判断-意思決定-行動(OODA)ループのモデルに基づく空中戦において認知されていることと似ているところがある。OODA ループをより迅速に循環できる、つまり正確な意思決定をより迅速に行えるパイロットは、通常、空中戦において勝利していた。ウェイン・ヒューズの言葉を借りれば、彼らは効果的に先制攻撃できたわけである。
とりわけわたしが、北大西洋条約機構(NATO)軍最高司令官として、上級意思決定者になった2000 年代までに、意思決定をサポートする可能性のある情報の量はまったく驚くべきものとなっていた。わたしは、平和的行動と暴力的行動の両方を決定しなければならない人間に対して選択肢を処理し、組み合わせ、検証し、明確にする方法が必要であることを知っていた。前米国海軍作戦部長であったジョン・リチャードソン(John Richardson)提督が言うように、敵が意思決定を下す前に、より速く意思決定を下す必要があった。
幸いなことに、人工知能(AI)システムの開発は大きな可能性を秘めており、特に意思決定の速度が生死を意味する場合に、重要な立場に立つ人間の意思決定を強化する(つまり、人間の意思決定を置き換えるのではなく、しばしば矛盾しあいまいな情報の混戦の真っただ中で人間が効果的に意思決定するのを支援するという認識である)。わたしにとって、AI に対する真の期待は、人間-機械のチーム化と協働化の新たな方法を通じてOODA ループを高速化することである。
わたしは、自分とNATO の飽くなき献身的な人員が、作戦中に複雑な情報を分類するのを支援するAI システムを持っていたらよかったのにと思う。疲れを知らないように奮闘する人間ではもはや十分ではない。残念ながらNATO では、自分たちの技術的な優位性を十分かつ効果的に活用していなかった。
これらすべてが、わたしが本書の序文を書かせていただく機会に飛びついた理由である。AI、機械学習、ビッグデータ、軍事における人間-機械チーム化の期待に関する一般的な議論が急増してきているが、米国と米国海軍がこの期待をどのように達成できるかについてはほとんど論述されていない。本書では、この進歩と、この誇大な宣伝となっている内容を掘り下げて、AI の海軍の戦闘への適用と限界の両方を特定する最初の一冊となろう。
国防副長官としての任期中、わたしの親友であり同僚である尊敬すべきボブ・ワーク(Bob Work)は、第三のオフセット戦略を策定するために自分の取り組みの中心にAI を位置付けた。第三のオフセット戦略をめぐる議論は、それ自体が複雑になり、時には論争の的になった。わたしは、自分の海軍帽をかぶり、わたしたちが「敵艦に突撃する」ことをネルソンの言うように可能とするために、海軍(および一般的に軍事作戦)でAI を実現するための必要性を述べたい。
大国との対戦の可能性が近づきつつあるこの時期において、わたしは「最初に効果的に攻撃する」能力が効果的な抑止をさせ得る主要な成功要因であると信じている。もちろんAI は、戦闘と抑止、戦争と平和に関する効果的な意思決定に対する完全な解決策ではない。しかし、それが将来の意思決定者たちの賢明な選択への足掛かりとなるならば、その期待を裏切らないであろう。わたしは本書が、AI を国防の意思決定に効果的に適用する基盤の構築に向けた独創性に富んだ第一歩であると信じている。わたしの友人であるジョージ・ガルドリシ(George Galdorisi)とサム・タングレディ(SamTangredi)という二人の優秀な思想家が編集し、また一部を執筆した本書は、読者を人工知能というまだ海図のない海域を航海できるようにする「海洋情報詳細資料」である。
ジェイムズ・G・スタブリディス米国海軍大将(Adm. James G. Stavridis,USN、退役)

著者プロフィール

サム・J・タングレディ (サム ジェイ タングレディ) (著/文 | 編集)

サム・J・タングレディ(Sam J. Tangredi)は、米国海軍大学の未来戦研究(Future Warfare Studies)のレイドス(Leidos)議長、未来戦研究所(Institute for Future Warfare Studies)の所長、国家・海軍・海洋戦略の教授を務めている。米国海軍兵学校と米国海軍大学院を卒業後、南カリフォルニア大学で国際関係学の博士号を取得した。海上艦艇幹部として30年の海軍での経歴を持ち、最終的には米国艦艇「ハーパース・フェリー」(USS Harpers Ferry [LSD 49])の艦長を務めた。陸上では、戦略計画者として、また戦略計画チーム長として、米国海軍作戦部長の戦略・構想部門(N513)、海軍国際事業室の戦略計画・事業開発責任者を務めた。また、米国海軍長官の演説原稿作成官や特別補佐官、統合参謀本部の国防資源管理官、ギリシャ共和国の米国国防武官なども務めた。5 冊の本と150以上の論文を発表し、米国海軍協会のアーレイ・バーク(Arleigh Burke)賞や米国海軍連盟のアルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan)賞など、14 の専門著述賞を受賞した。連絡先は、彼のウェブサイトwww.samjtangredi.com。

ジョージ・ガルドリシ (ジョージ ガルドリシ) (著/文 | 編集)

ジョージ・ガルドリシ(George Galdorisi)は、米国海軍情報戦センター太平洋(Naval Infor-mation Warfare Center Pacific)の戦略評価未来技術研究所(Strategic Assessments and Technical Futures)の所長であり、ビッグデータ、人工知能、機械学習の作戦上の使用に焦点を当てた研究を行っている。同センターに入所する前は、海軍飛行士としての30 年の経歴を持ち、14年間連続して副指揮官、指揮官、海軍准将、参謀長を務めた経験を持つ。最後の作戦配置は、米国艦艇「カールビンソン」(USS Carl Vinson)と米国艦艇「エイブラハム・リンカーン」(USS Abraham Lincoln)に乗艦していた第3 巡洋艦駆逐艦群の参謀長としての5年間であった。その間、米国代表団を率いて人民解放軍海軍との軍対軍の対話にも参加した。小説やノンフィクション作品、専門誌への寄稿も多く、米国海軍協会『会誌』(Proceedings )の受賞論文「海軍にはAI が必要だが、その理由を確信できないだけ」(The Navy Needs AI:It’s Just Not Certain Why)などを執筆した。執筆以外では、ウェブサイト(www.georgegaldorisi.com)を通じて読者との交流を楽しんでいる。

五味 睦佳 (ゴミ ムツヨシ) (監修 | 編集)

五味睦佳:監訳および監訳者所見執筆
ごみ・むつよし。1941年、愛知県名古屋市生まれ。1964年防衛大学校航空工学科卒(8期)、米国海軍大学指揮課程卒。海上自衛隊自衛艦隊司令官で退官(海将)。株式会社NTTデータ顧問を経て、株式会社エヌ・エス・アール取締役、デイフェンス・リサーチ・センター研究員、株式会社エヌ・エス・アール上級研究員歴任。2022年、本書の完成を待たずに永眠。長年、我が国の防衛に多大な貢献をされてきたが、図らずも本書の監訳が最後の遺稿となった。
著書に『覇権国家・中国とどう向き合うか』、『日本が中国になる日』、『東シナ海が危ない』、『最新国際関係論』(鷹書房弓プレス、いずれも共著)、共訳書に『中国の進化する軍事戦略』(原書房)、『中国の情報化戦争』(原書房)、『中国の海洋強国戦略』(原書房)がある。論文に「国の脅威にどのように対処するか」(軍事研究)、「日本のシーレーン防衛と台湾」、「アルゼンチン観戦武官の今日的価値」等がある。

杉本 正彦 (スギモト マサヒコ) (翻訳)

杉本正彦:第2章、第3章、第4章、第14章および第18章の翻訳
すぎもと・まさひこ。1951年、富山県生まれ。1974年防衛大学校基礎工学Ⅰ卒(18期)。潜水艦隊司令官、呉地方総監、自衛艦隊司令官、海上幕僚長歴任後退官(海将)。株式会社NTTデータ特別参与を経て、現在、株式会社エヌ・エス・アール取締役会長、株式会社NTTデータアドバイザー。共訳書に『中国の海洋強国戦略』(原書房)がある。論文に「『海自』インド洋活動全報告―よくぞ遣(い)ってくれたイージス艦」(『諸君』2003年)等がある。

大野 慶二 (オオノ ケイジ) (翻訳)

大野慶二:第9章、第10章、第11章および第12章の翻訳
おおの・けいじ。1957年、大阪府生まれ。1982年京都工芸繊維大学工芸学研究科(電気工学)修了。現在、株式会社エヌ・エス・アール取締役、株式会社NTTデータアドバイザー。海上幕僚監部装備部装備課装備調整官兼装備班長、横須賀造修補給所副所長、装備本部長崎支部副支部長、海上自衛隊横須賀弾薬補給所長、防衛省南関東防衛局調達部次長歴任後退官(海将補)、株式会社エヌ・エス・アール研究員。共訳書に『中国の進化する軍事戦略』(原書房)、『中国の海洋強国戦略』(原書房)がある。

壁村 正照 (カベムラ マサテル) (翻訳)

壁村正照:第15章および第16章の翻訳
かべむら・まさてる。1964年、大分県生まれ。1986年防衛大学校電気工学科卒(30期)、米国南カリフォルニア大学大学院電気工学修士課程卒。現在、株式会社エヌ・エス・アール研究員、株式会社NTT データアドバイザー、公益財団法人偕行社現代戦研究員。フィンランド兼エストニア防衛駐在官(外務省出向)、陸上自衛隊の第6特科連隊長、群馬地方協力本部長、東北方面総監部情報部長、西部方面特科隊長、第15旅団副旅団長歴任後退官(陸将補)。共訳書に『ロシアの情報兵器としての反射統制の理論―現代のロシア軍事戦略の枠組みにおける原点、進化および適用』(アンティ・ヴァサラ著、五月書房新社)がある。

木村 初夫 (キムラ ハツオ) (翻訳)

木村初夫:序文、序章、第1章、第13章、第17章、第19章、終章およびあとがきの翻訳ならびに翻訳版編集
きむら・はつお。1953年、福井県生まれ。1975年金沢大学工学部電子工学科卒。現在、株式会社エヌ・エス・アール上級研究員、株式会社NTTデータアドバイザー。1975年日本電信電話公社入社、航空管制、宇宙、空港、核物質防護、危機管理、および安全保障分野の調査研究、システム企画、開発担当、株式会社NTTデータのナショナルセキュリティ事業部開発部長、株式会社NTTデータ・アイの推進部長、株式会社エヌ・エス・アール代表取締役歴任。共訳書に『中国の進化する軍事戦略』、『中国の情報化戦争』、『中国の海洋強国戦略』(すべて原書房)、『知能化戦争』(解説)、『マスキロフカ』、『ロシアの情報兵器としての反射統制の理論』(すべて五月書房新社)がある。主な論文に「A2/AD 環境下におけるサイバー空間の攻撃および防御技術の動向」、「A2/AD 環境におけるサイバー電磁戦の最新動向」(『月刊JADI 』)等がある。

五島 浩司 (ゴウトウ ヒロシ) (翻訳)

五島浩司:第5章、第6章、第7章および第8章の翻訳
ごとう・ひろし。1958年、山口県生まれ。1981年防衛大学校電気工学科卒(25期)。現在、株式会社エヌ・エス・アール研究員、株式会社NTTデータアドバイザー。海上自衛隊のしらゆき艦長、みょうこう艦長、防衛省弾道ミサイル防衛室調査分析チーム長、第8護衛隊司令(第1 次派遣海賊対処水上部隊指揮官)、神奈川地方協力本部長、第1 海上補給隊司令、函館基地隊司令歴任後退官(海将補)。共訳書に『中国の進化する軍事戦略』(原書房)、『中国の海洋強国戦略』(原書房)がある。

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