児童精神科医は子どもの味方か
書評掲載情報
2023-07-17 | 日本教育新聞 2023年7月17日 評者: 大久保 俊輝・麗澤大学教職センター長 |
紹介
もしあなたや我が子が「発達障害(ADHD、ASD」と言われたら?まずはこの本を御一読下さい。
科学的な診断方法が確立されていない「発達障害」「精神疾患」について、専門家はあまりに安易な診断と処方を急ぎすぎていないか?
筆者は知られていない歴史と現状に光を当て、緻密なデータを駆使してこの問題を分析する。長期間に渡る取材を通して見えてきた実態を改めて日本人に問う。
「その専門家の意見は正しいですか?」「彼らはあなたやあなたの家族の味方ですか?」
目次
第1章 危機的状況にある子どもたち
暴走バス
存在感を増す児童精神科医
効果は無いが致死性の副作用がある薬?
コラム 精神医療現場でのインフォームドコンセント
児童精神科医への疑問
ごく一部の例外的問題なのか?
子どもと精神医療の関わり
コラム 障害という訳語の問題
第2章 児童精神医学の知られざる歴史
児童精神科医は子どもの味方か?
歴史的背景
アスペルガーの真実
自閉症児にL S D ?
学校に行かないことは病気なのか?
権威の正体
教育分野にアプローチする児童精神医学
暴走するチェックリスト
新たな潮流: 早期介入
覇権争い
偏見を作るメンタルヘルス啓発教育
製薬会社と児童精神科医
不登校やいじめの原因としての発達障害、精神疾患
自閉症児へのL – D O P A 療法
人体実験そのもの
暴走する信念
児童精神科医もどきの大量生産
ネットワークという名の無責任体制
他人の虐待に厳しく、身内の虐待に甘い児童精神科医
第3章 作られたイメージと本当の姿
精神医学のマーケティング化
作られた発達障害のイメージ
一生治らないという呪縛
専門家は正しい診断、適切な治療をできるのか?
精神科診断は証明ではなく見解
差別や偏見を無くそうというメッセージの裏側
政府が精神医療業界の広報活動を代行する罪
結果が検証されない業界
自閉症バブルを作り出す人々
コラム 有病率と発生率について
周囲の非合理に逆らうことが発達障害とみなされる
大人に逆らわなくさせるための投薬
第4章 どのように子どもを守れるか
脅され、不安にさせられ、泣かされる母親
鍵を握るのは人権
権利を知り、権利制限の根拠を確認する
精神科医師の倫理綱領
専門家への無条件の信頼は危険
前書きなど
はじめに
児童精神科医がにわかに脚光を浴びるようになっています。発達障害を取り扱う専門家としてのニーズがどんどん高まる中、コロナ禍における子どもたちの精神的不調が注目されるようになり、ますます児童精神科医の存在感は増しています。マスコミ報道も政府広報も、不調を感じたら早期受診するよう呼び掛けていることもあり、多くの人々は児童精神科医のことを「子どもの心を守る専門家」と信じて疑わないでしょう。
しかし、本書はそのような風潮に正面から疑問を投げかけます。人々が信じているのは、児童精神科医の実態ではなく見せかけの姿(=作られたイメージ)ではないのかということです。
児童精神医学の歴史を振り返ると、とても子どもの味方であるとは思えない残虐な一面が浮かび上がってきます。社会に従わせるために残虐な治療を強制したり、社会にとって価値無いと判断した子どもを抹殺したりもしました。その根底にあったのは精神疾患や精神障害者に対する差別的な価値観でした。危険な思想と治療が児童精神科領域に浸透していたと言っても良いでしょう。
過去は過去です。過去に過ちがあったとしても、それに向き合い、反省し、過ちを引き起こした根本的な問題を処理することで、再び同じ過ちを犯さないようにすることは可能です。一方で、その過去をまるでなかったように振る舞ったり、危険な本質を変えることなく表面上は改善されたかのようにみせかけたりすることもできます。
はたして、児童精神医学は過去を清算し、孕んでいた危険な要素や不良分子をしっかりと排除できたのでしょうか。それとも、それが安全に見えるように粉飾しているだけで本質は変わらないままなのでしょうか。
児童精神医学の過去と現在を調査する中、浮かび上がってきた重要な要素は「精神医学のマーケティング化」と「精神医療業界の広報活動を代行する政府」です。業界にとって都合の良い情報のみが「正しい情報」とされ、都合の悪い情報が「偏見」とされることで、一般市民には本当の姿が見えにくくなっています。
この20年強、精神医療業界はマスコミと政府を巻き込み、「自殺を防ぐ」「差別や偏見を無くす」という大義名分を掲げ、受診の抵抗感を無くして早期受診を促すキャンペーンを展開してきました。精神的不調を抱える人々にとって唯一の安全な避難所であるかのように誘導してきました。
ところが、安全と思われていた避難所は地雷だらけでした。避難先で気付かずに地雷を踏み、もっとひどい目に遭うという事例が多発しています。本来、危険な地雷を撤去してから人々を誘導すべきでしょう。地雷を撤去しきれないのであれば、せめて地雷があることを徹底的に注意喚起するべきでしょう。ところが、精神医療業界とマスコミ、政府は地雷に土をかぶせて見えなくし、安全であるかのように粉飾してしまいました。特に児童精神科領域はその傾向が顕著です。
現在においても、児童精神科領域では科学的根拠のある診断や根本的な治療が実現できているわけではなく、誤診や不適切な治療が人生を台無しにしてしまうリスクを常に孕んでいます。その上、質が低く、人権意識に欠け、かえって状態を悪化させるような問題ある専門家という存在があるものの、現行の医療行政ではそのような不良分子を排除することもできません。
私は、児童精神医学が不完全であることを責めたいのではありません。児童精神科医の肩書きを持つ専門家を一律に批判したいのでもありません。採算が取りづらいこの児童精神科という領域で、精神科診断・治療の限界と危うさを理解した上で、謙虚な姿勢で子どもたちに向き合う専門家もいます。専門学会はしっかりとした倫理綱領も掲げており、それを会員に遵守させようと努力している専門家もいます。物凄い数と割合の子どもたちが薬漬けにされてきた米国に比べると、日本の児童精神科医は投薬が慎重であるという傾向もうかがえます。
私が本書を通して明らかにしたいのは、危険な要素や不良分子という存在が覆い隠され、作られたイメージによって実態が歪められているという事実です。優良誤認表示と呼ぶにふさわしいその姿勢は、学習指導要領の改定に伴って2022年度から一新された高等学校の保健体育の教科書にも反映されています。追加された「精神疾患の予防と回復」の項目の記述内容は私の危惧したとおりでした。精神医療の負の歴史や現実には一切触れない内容であり、早期に専門家にかかることこそが解決策であるかのように受け取れる内容でした。まるでリスクを一切説明しない投資話のような違和感を覚えました。
専門家の意見もそれに基づいた政策も、それぞれの立場からすると正しいものでしょう。しかし、何が正しいのか、何が間違っているのかは立場や時代によって異なります。たとえ専門家にとって正しいことであっても、一般市民や子どもたちの利益に結びつかず、むしろ有害ということすらあります。
本書は、児童精神医学の歴史から現状まで、ほとんど知られていない情報を取り上げ、一般的なイメージとは違った角度から検証していきます。そして、何でもかんでも精神医療につなげる一方でその結果に責任を持たず検証すらしない昨今の風潮に異議を唱え、何も知らずに被害に遭ってしまう子どもの悲劇を防ぐことを主な目的としています。子どもを持つ全ての親、子どもに関わる職業に就いている人々、そして早期に児童精神科につなげることが子どもにとっての最善だと信じている大人たちに特に読んでいただきたいと願っています。
著者プロフィール
米田 倫康 (ヨネダ ノリヤス) (著/文)
米田倫康(よねだ・のりやす)
1978 年生まれ。私立灘中・高、東京大学工学部卒。市民の人権擁護の会日本支部代表世話役。在学中より、精神医療現場で起きている人権侵害の問題に取り組み、メンタルヘルスの改善を目指す同会の活動に参加する。害者や内部告発者らの声を拾い上げ、報道機関や行政機関、議員、警察、麻薬取締官等と共に、数多くの精神医療機関の不正の摘発に関わる。著書に『発達障害バブルの真相』(萬書房)、『ブラック精神医療』(扶桑社新書)等。
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