ゼアゼア
書評掲載情報
2021-03-07 | 読売新聞 朝刊 評者: 柴崎友香(作家) |
2021-02-25 | FUDGE 7月号/vol.130 評者: Naoko Kurita |
2021-02-11 | その他 評者: 千葉集(作家) |
重版情報
2刷 出来予定日: 2021-06-15
紹介
ヨーロッパやアジア各国で翻訳される話題のアメリカ図書賞、PEN/ヘミングウェイ賞受賞作。現代アメリカ先住民文学の最前線にして最高傑作! 待望の日本語訳
カリフォルニア州オークランドに生きる「都市インディアン」たちの物語。オークランド初のパウワウが開催され、会場となるコロシアムには地元からも全米各地からも多くの人々が集う。Youtubeで踊りを覚えた少年オーヴィルと彼の家族。パウワウ実行委員のブルーやエドウィン。ドラムを鳴らし歌うトマス。管理員のビル。伯父の遺志を継ぐ映像作家ディーン。そして賞金50000ドルを狙うオクタヴィオたちと、トニー。それぞれの人生が交差するとき、コロシアムは銃声と静寂に包まれる。ヨーロッパやアジア各国で翻訳される話題のアメリカ図書賞、PEN/ヘミングウェイ賞受賞作。
目次
『ゼアゼア』目次
登場人物
プロローグ
第1部とどまる
第2部もういちど主張する
第3部引き返し、また曲がる
第4部パウワウ
謝辞
訳者あとがき
前書きなど
プロローグ
インディアンの頭
インディアンの頭があった。あるインディアンの頭、羽根飾りを着けた長髪の頭の絵。誰が描いたのかは分からない。1939年のインディアンの頭の絵は、1970年代後半まで番組放送終了後にアメリカ中のテレビに映し出された。インディアンヘッド・テスト画像と呼ばれている。テレビを点けたままにしておくと、440ヘルツの可聴音―調音に使われる―が鳴り、そしてインディアンが現れる。四隅に円が一つずつ、中央には二つ重なり、ライフルの照準器越しに覗いているようになる。二重円のなかに目標点のようなの、それから座標軸の数字のようなものもある。インディアンの頭は目標点の真上にある。あとは、了解と合図して、標的に狙いを定めればよいだけ。そんな雰囲気になる。これはただのテストである。
1621年、入植者たちはマサソイトを招いた。ワンパノアグの指導者である彼を、新たな土地取引ののち饗宴に招いた。マサソイトは九十名の仲間とともにやって来た。これこそ、今もわたしたちが11月にそろってテーブルを囲む理由だ。国をあげて祝う。しかし、当時は感謝を表す食卓ではなかった。土地取引の祝宴だった。二年後、また同じように、永遠の友好を表すはずの晩餐が催された。そして、二百名のインディアンが謎の毒物で命を落とした。マサソイトの息子メタコメットが指導者となる頃、インディアンと入植者が食事をともにすることはなくなっていた。メタコメットはキング・フィリップとしても知られ、インディアンの保有するすべての銃を放棄するという平和条約への署名を余儀なくされた。彼の仲間が三名、吊るされた。兄のワムスッタは、諸説あるけれどおそらくは、プリマス裁判所に召喚されてそのまま捕まり、毒殺された可能性が高い。こういうことから、最初の正式なインディアン戦争が始まった。最初の対インディアン戦争。キング・フィリップ戦争。三年が過ぎる。戦争が終わり、メタコメットは逃走した。そして捕まった。最初のアメリカ歩兵部隊長であったベンジャミン・チャーチと、ジョン・オルダーマンというインディアンによって捕まった。メタコメットは首をはねられ、身体は切断された。四つに裂かれた。彼らは、四つになった彼の身体を近くの木に吊るし、鳥たちが啄ばむに任せた。オルダーマンはメタコメットの手を与えられ、瓶に入れてラム酒漬けにし、何年も持ち歩いていた。人々に見せた。メタコメットの頭はプリマス植民地に30シリングで売られた。インディアンの頭に対する当時の相場だった。頭は大槍に刺され、プリマスの通りを引き回され、それから二十五年にわたってプリマス砦に飾られた。
版元から一言
「今年読むべき10冊の本」ニューヨークタイムズ
その他、ワシントンポスト、サンフランシスコ・クロニクル、ボストン・グローブ等、全米各紙絶賛の書評!
著者プロフィール
トミー・オレンジ (トミー オレンジ) (著)
1982 年カリフォルニア州オークランド生まれ。シャイアン・アラパホ部族の登録
員。アメリカインディアン芸術大学で芸術学修士号(MFA)を取得。現在同大学
で創作を教えている。デビュー作『ゼアゼア』で2019 年アメリカ図書賞や2019
年PEN /ヘミングウェイ賞を受賞。短編作品には、「ニュー・ジーザス」(『マク
スウィーニーズ』2019 年、58 号)、「スコア係」(『試合のための身体―現代スポー
ツ小説のアンソロジー』ネブラスカ大学出版、2019 年)などがある。
加藤 有佳織 (カトウ ユカリ) (Yukari Kato)
神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部助教。専門はアメリカ文学・カナダ
文学。共著に『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』(書肆侃侃房、2020 年)。
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